オランダ発のジャジーでジェントルなシンガー、ウーター・ヘメル。彼をプロデュースし、一躍スターダムへと押し上げたベニー・シングス。そんな2人にゆかりある女性シンガーがデビューすると聞いて、食指の動かないポップス愛好家はいないのでは。彼女の名はジョヴァンカ。その才能を見抜いたのは、もちろんベニー・シングスで、初のアルバム『サブウェイ・サイレンス』も、ベニーのプロデュースによるものだ。
「最初から、何をしたくないかっていうのはハッキリしていたの。具体的には“ただのニュー・ソウル・アルバムにはしたくなかった”ということなんだけど。それをどうやって実現するかが、大きな課題でもあったわ。ほかに気を付けたのは、いかに私のスタイルを生かした“ベニー・シングス・プロデュース作品”にするか。私の声と、ベニーのスキルがしっかりと合わさってこそ可能になるっていうのは分かっていたんだけど」
ここにあるのは、聴く者の心をふっと軽くするようなソウルとポップスの幸せな邂逅。それでいて時折、ビートの鳴りもエッジーなダンス・トラックも披露と、この辺は彼女のいうジョヴァンカ・スタイルの現れか。
「私はストリートの出身でもあるから、そういったテイストもこの中には反映されていて。そこがウーターとの違いであり、私の個性でもあると思うの。逆にいえばウーターの持っているジャジーなフィーリングは、彼にしか出せなかったりもするし。でもどれも、ベニーの引き出す力のおかげだと思うんだけど」
確かに“ヒップホップやハウス以降”が伺える音作りなど、ベニーの貢献度は小さくはない。だが、この作品に決定的な“色”を付けているのは、ジョヴァンカ自身の歌声。まるで白い羽が生えているかのよう、とでもいえばいいのか。どうしても比べたくなってしまうのがあの不世出の天才シンガーだが……。
「ミニー・リパートンは私も大好きなシンガーの一人。ささやきかけるような感じ、歌に込められたメッセージの伝え方とか、学ぶべきところはたくさんあって。でも歌い方そのものを真似しようと思ったことはないの。彼女はそれこそ何オクターブもある声の持ち主で。真似できないっていうのもあるんだけど」
本格的に歌い始める以前からモデルや女優としてキャリアを積んできた彼女(ちなみにファッションのこだわりは「状況に応じ自分自身が心地よいと思える格好をすること」だとか)。歌うことも演じることもすべてが自己表現であり、クリエイティヴなこととするならば、そのインスピレーションの源はどこにあるのだろう。
「私の場合、目にしたもの耳にしたものすべてそう。例えば眼下に、スクランブル交差点が広がり、すごい数の人が行きかいってなっていたら、“みんな何を考えどこに向かっているんだろう”って想像が働いて、歌詞のアイデアや曲の雰囲気までも湧いてきたりとか。だから、つねに周りで起こっていること、傍にいる人間に対してオープンに接し観察することが大切。そうやってこれからも、色々な経験を反映させていきたいわね。それが聴いた人、観た人にもちゃんと伝わり、その伝わったことを自分も感じ取りって、そんな密接な関係をみんなと築き上げるのが私の理想であり、目標なの」
「クラブ・ミュージック世代のバート・バカラック」との異名をとる希代のポップ・マジシャン、ベニー・シングス。今回プロデューサーとして、ジョヴァンカのアルバム『サブウェイ・サイレンス』制作に携わった彼にも話を伺ってみた。
以前手がけたウーター・ヘメルには、“曲作り”という点において明確なハードルを設けたようですが、ジョヴァンカに対しても何かリクエストをする部分はあったのでしょうか。
「いや、特にそういう風なものはなかったよ。ウーターの時とはプロセス自体まったく別物であったのが、大きな理由だと思う。意見交換をする機会はたくさんあったけど、“こうして欲しい”っていう具体的な指示は出さなかったような気がする」
つねに臨機応変さが必要だってことですね。そういった部分も含めて、アナタの考える理想のプロデューサー像を教えてもらえますか。
「人の心、琴線に触れるような曲を形作れる人っていうのが僕にとっての優れたプロデューサーであって。どのような手法、技術や機材を使うのかっていうのはあまり関係なかったりもするんだよね」
優れたプロデューサーでいるためには、つねにクリエイティヴでいることが求められると思うのですが。
「それは確かだね。その為には色んな人の曲からインスパイアされ続けることが大事だと思っている。自分で音楽を作っていると毎日が忙しくて、ほかの人の曲を聴く機会って限られてしまうから、だからこそ大切であったりもするんだ」
今後クリエイティヴィティを発揮し成し遂げたいことを最後に教えてください。
「僕は……お金持ちになりたいんだ(笑)。時間とお金は等価で、好きなことをして長生きするためには、お金がどうしても必要なんでね」
(text by 山岸 睦郎)

オランダ・ドルドレヒト生まれのシンガー・ソングライター。グランジ・ブームに触発され、15歳の時にバンドを結成。以降ソウル、ジャズ、ヒップホップ、エレクトロニカと興味を広げ、コンピューターでの音楽制作を開始。いつしかピュア・ポップを志向するようになり2003年にデビューを果たす。これまでにアルバムを3枚発表。最新作は今年3月に邦盤化された『ベニー…アット・ホーム』。ソロと並行し、プロデューサー/ビート・プログラマーとしても活躍。ウーター・ヘメルのブレイクに一役買ったのも記憶に新しいところ
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モデルとして10代から活動し、今もオランダを代表する黒人モデルとして活躍中。ファッションの仕事を通じてジル・スコットやインディア・アリーなどのアーティストとも交流を深めている。メインである音楽活動において、自身の声を世間に初めて公表したのはウーター・ヘメルのアルバム『Hemel』日本盤収録の「As Long As We Are In Love」で行ったウーターとデュエット。ウーターのプロデューサーであったベニー・シングスは彼女の才能に惚れ込み、今回のアルバム制作がスタート。そして2年にも及ぶレコーディングを経て、『SUBWAY SILENCE』が完成した。
- 01. On My Way
- 02. Joyride
- 03. Hypnotize You
- 04. A Matter of Facts
- 05. Melancholic You
- 06. Pure Bliss
- 07. Moving Me
- 08. You Can Do It
- 09. Free
- 10. To The Moon
- 11. Stay Together
- 12. You Again
- 13. Here To Stay (duet with Benny Sings)
- 14. Beautiful
- 15. I Remember


