熱い気持ちが、人を動かしモノを生み出す。
現在公開中の牧野耕一監督の映画『イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ』。それは手作りにとことんこだわり、世界中のミュージシャンやアーティストから支持されるレザーブランド「BACKLASH」のオーナー兼デザイナー、片山勇を1年半追いかけたドキュメンタリーフィルムだ。普段マスコミに登場することのない片山の素顔に迫るフィルムには、彼の真摯な姿と彼を取り巻く人々の証言が刻みこまれている。今回は、監督の牧野耕一、ドキュメンタリーの主役である片山勇、さらには映画の中にも登場する二人とは旧知の間柄である東京スカパラダイスオーケストラのGAMOに、映画についてモノを作ることについて聞いてみた。
――牧野監督がこの映画を撮ろうと思ったきっかけというのは?
牧野:人間って、その人特有のオーラがあると思うんですね。でも、長年付き合っていくとその人が身近な存在になって、最初に感じたオーラは消えてしまう。ところが、片山さんから感じるオーラは知り合ってから映画を撮り始めようとした8年経っても消えなかった。ミステリアスな人間性、その魅力はなんだろうと思ったのがきっかけですね。片山さんもGAMOさんも長い付き合いですが、二人とも40代になって、語ることが深くなってきて、これは映像に残しておきたいという気持ちもありました。
片山:普段あまり表には出ないのですが、このドキュメンタリーを受けたのは、牧野監督が撮った東京スカパラダイスオーケストラの『SMILE ひとが人を愛する旅』という映画を見たことが大きいですね。独特の色使いや質感に惹かれました。リクエストとしては、1年を通して追いかけて欲しいと。
牧野:撮るにあたっては、まずGAMOさんに相談しました。
GAMO:正直、1年もの長い期間、ドキュメンタリーという手法で映画をとるのは大丈夫かなと思いました。ドキュメンタリーって、壁のようになってその場の空気に溶け込んで撮るタイプの人と、対象に向かってくるタイプの人がいると思うんですね。牧野監督は、完全に被写体に向かってくるタイプ。撮るほうも撮られる方もガチンコ勝負の世界。2人ともよく知っているだけに、両方の気持ちがわかってしまう部分があって、その勝負が1年持つかなと。
片山:イタリア・ミラノでの真剣勝負の商談から、家族旅行まで。結局、1年以上追いかけてもらいました。カメラが近くに迫ってきて、プレッシャーを感じることもありました。でも、カメラを向けられて、自分の小さい頃の記憶が蘇ったり、自分の中の全てを引き出してもらいましたね。カメラと対峙して気持ちが高ぶってきて、自分をさらけ出した感じです。「BACKLASH」は、革にとことんこだわっていて、その質感、匂いを直接感じてほしいからあえてネット販売もしない。この映画には、その革と同じような“手触りや匂い”が刻まれたと。
牧野:ドキュメンタリーは暮らしながら撮るものだと思うんです。その人の人生に入り込むからには、責任をとるつもりで撮ります。被写体に迫って、その人に徹底的にこだわって入り込む。俺は好きな人しか撮らないんですね。プロってある種バランスが必要なところがあると思うんですが、そういう観点からみるとアマチュアなのかもしれない。仕事っていう感覚じゃなくて「人の人生を美しく撮りたい、一発で息を止めて凝縮して撮りたい」って気持ちが勝ってしまう。バランスなんて考えない真剣勝負の世界。
その姿勢のルーツは、10年以上前にスカパラの九州ツアーを撮影して、GAMOさんに褒められたことなんですよ。自分のスタイルって、自分だけで築くものじゃない、認めてくれる人がいて初めて気づかされることってある。俺は、大きなカメラを一人で持って撮影するんですが、それが俺らしいと教えてくれたのはGAMOさん。ミュージシャンもファッションデザイナーも映像作家も、どの職業でもその道具に対するこだわりとかを距離感ってあると思うんですね。それを教えてもらった。そのことは、俺の仕事にもこの映画にも息づいています。
片山:10年前に知人から監督を紹介されて、そのギラギラした目に「こいつは絶対なにかある」って感じて、こいつをもっと知りたいと思って。パワーって見えないものじゃないですか? でも感じる。監督のその力を信じた。自分の人を見る目を信じた部分はありますね。
牧野:俺は、仲間をいい先輩たちを信じて映像を撮ってきました。この映画に出てくれたのは、GAMOさんをはじめとするスカパラのメンバーや、デザイナーやミュージシャンたち。みんな損得抜きで参加してくれた。みんないい大人だから、損得ってものを知っている。でも知った上で、こいつに騙されてやろうって、ビジネス抜きで出演してくれる。みんなロマンチストなんですね、みんな。人の力を信じている。上下も勝ち負けも考えない、いい服を作る、いい音楽を作る、いい映像を作るってことに懸けている。
片山:1年間一緒にいて、クリエイターとして尊敬できることを再認識しました。諦めないんですよ、絶対に、監督は。スタッフにもいつも言っているんだけど「諦めるな」って。自分がかっこいいと信じたものを作り出すには、ぎりぎりまで諦めない。若いクリエイターに言いたいのは、ひとつこれだときめたら、それを突き進むこと。自分のやっていることは間違いじゃないと信じること。俺は何が好きなのか? 何を信じているのか? そんなことを感じられる映画になったと思います。
牧野:GAMOさんが映画『SMILE』の中で「音楽なんて必要ない。生きるには必要ない。自分は必要がないものをやっているからこそ、真剣にやらないといけない」って言うんですね。それにすごく共感して、この映画はそんな男たちが、愚直に真面目にひとつのことに取り組んでいる姿を映し出しています。いかに自分のテンションを保って、情熱を保って生きていけるか? 歳をとるのも悪くないなと思ってほしい。
GAMO:牧野耕一という一人の男の熱が、片山さんに伝わり、それが映画になって見る人に伝わる。熱は人を動かし、変えていくと思います。クリエイターだけじゃなく、一般の人にも熱を持ち続けることの大切さを教えてくれる映画だと思います。

牧野耕一(左)
監督・構成・撮影・編集
1973年岐阜生まれ。2004年長編映画『CATCH THE RAINBOW〜東京スカパラダイスオーケストラ ロードムーヴィー』で監督デビュー。以後、『SMILE 人が人を愛する旅』『ROCK LOVE』などで監督・構成・撮影・編集のすべてを一人で担当。強烈な色彩が話題を呼ぶ。「隣にいる、好きな人」を撮り続けるのが信条。
片山勇(右)
BACKLASHオーナー兼デザイナー
1965年広島生まれ。革とバイクが好きだった父の死をきっかけにレザーファッションデザイナーを志す。父親と過ごした少年時代の記憶が彼の創作の原点。手染めや複雑な加工を施したレザーウエアは芸術的でさえあり、世界中のミュージシャンやデザイナーから支持されている。2004年春夏コレクションからパリコレクションに参加。以後、パリやミラノでメイド・イン・ジャパンの革を発信し続けている。
GAMO(中央)
東京スカパラダイスオーケストラのテナーサックスプレイヤー。20周年を迎えるスカパラの全国TOURが9月28日NHKホールよりスタート!10月には3年振りとなるシングルを発売。
詳しくはhttp://www.tokyoska.netまで。

一切の妥協を許さない片山の情熱的な仕事ぶりをはじめ、彼がレザー・ファッションの世界に進むきっかけとなった父親との関係、ブランドに対する思い、心許し合う仲間や家族への愛情を浮き彫りにしたドキュメンタリー。1年半かけて、丁寧に撮られたフィルムからは、レザーを武器に世界に挑む孤高のサムライの姿が浮かび上がる。




