すべてに通じる「自分で考え行動すること」の重要性
プロレタリア文学の最高峰として賞賛される小林多喜二の『蟹工船』。現代の世相に通じるその内容から昨年より社会現象言われるほど注目され、遂に映画化された。メガフォンをとったのは、同じくベストセラー・重松清の『疾走』を独自の世界観で創り変え我々に見せつけたSABU監督。そのSABU監督に『蟹工船』の制作秘話やみどころ、また創作活動に励むクリエイターに向けたメッセージを訊いた。
――今回も名作の映画化でしたが、脚本作りで大変だったことはありますか
最初は原作に準じてつくったんですけど、皆で話合った結果、もっと“俺らしいもの”にしてほしい、となったんです。そうなるとこちらは得意なんで(笑)、どんどん崩していきました。
また最初から自分の中で着地点は決まっていたし、登場人物の笑っている表情がだんだん引き締まっていくという大筋も決まっていたので全体的につくりやすかったです。
――観ている方もだんだん表情が引き締まってきました。あと、いくつか登場人物の台詞が印象的でした。
台詞に関しては、現代でも分かりやすく、普通だけど「届く」ように言葉を一生懸命探しました。 特に、主人公の演説やロシア船で出くわした中国人の台詞。
――全体を通じてメッセージ性を強く感じましたが、社会現象までになった『蟹工船』の映画化ということで特別に何か調べたり考えたことなどありますか?
今回特別に、ということはありません。「前向きに」「今が大切」「自分で考えて行動する」といったことは以前より語ってきたことです。
元々これまで書いていた脚本に共通点があって、マイナスからプラスに展開していくストーリーとか、主人公は普通の人とか、そういうのが好きなんです。
――以前何かのインタヴューでSABU監督は脚本を書かれる際、いつも音楽を聴かれると拝見しましたが、今回も何か聴かれていましたか?
たぶん、何か聴いていましてね。ただ、実は今回制作時間が非常に短かったもので(あまり憶えていない)。
いつも絵コンテを先に描くのですが、あまりにも時間がなくて撮影現場で描いていました。
――では、撮影も大変だったんじゃないでしょうか?
苦労は本当にしてないです。楽しかった! ただ3週間で1,500カット撮ったんですよ。これ、すごい分量なんです。皆、本当にぶっちぎって頑張ってくれました。
――甲板や工場などセットも凝っていらっしゃいましたね
イメージ通りに仕上がったというか、とにかく美術の方々の投身力が凄くて撮影中どんどんつくっていったんですよ。仕事を超えて、本当に楽しんでつくってくれたようです。
――キャスティングにおいては、猟奇的な鬼監督に西島秀俊さん、声を張って皆を引き連れる松田龍平さんなど意外な配役だと感じましたが、何か意識されたのでしょうか?
今回、“自分の得意とする演技を意気込むタイプなじゃない人たち”にお願いしました。
西島さんが演じた監督役ももっと分かりやすい別の人をキャスティングすることはできたんですけど、敢えてお願いしました。龍平くんは声を張る役をしたことがなかったので見てみたかった。
挑戦するというか、皆で悩んで答えをだそう、という感じでつくっていきました。
――SABU監督は映画を皆で一緒につくろう、というタイプでしょうか?
そうですね。俺が「ああしろ、こうしろ」ということは全然ないです。
――そういえば、助監督の中にSABU監督のファン(?)がいらっしゃったそうですね
今回助監督をやってくれた人の中に、劇場で俺の映画を観て映画界に入ろうと思った人が三人ぐらい居ました。「人生変えてしまってごめんなさい」みたいな(笑)、感じです。
いずれにしても人生を変えるって、映画って凄いですよね
――その方々はじめ、映画監督を目指している人やその他の創作活動に励んでいる人たちが成功するにはどうしたら良いと思いますか?
“運”だと思いますよ(笑)。
けど、意識することは大事。『蟹工船』とおなじで常に「自分はどうなりたいか」ということを思い描き、それについて考える。考えると何をすべきかが見えてくるので、それを行動に起こすということが大事だと思います。要は準備をしておくということ。結局、仕事になりそうな段階から始めても遅いと思うし、早くから動いていても損なことはないので。
何かやったら次が見えてくる、の繰り返しだと思います。『蟹工船』もあの完成形が最初から見えていたわけではなく脚本の第一稿を書いて次が見えてきて、積み重ねてあそこに辿り着きました。ひとつひとつきっちり、が大事だと思います。それが信念に繋がり、最終的に力になる。
神様も“思いが強い人”にだけ微笑むのでは(笑)。
俺自身、実感していることです。
――もしかしたら、辿り着くまで時間がかかってしまうかもしれませんね
遠回りして時間がかかるかもしれません。
若いときは特に遠回りが嫌だと思います。俺も昔は嫌だった。
24,5歳のとき、周りがどんどんいい感じになってきて「俺も若い時に成功したい」「モテたい」と思っていました。
けど今は、そうでなくて良かったと思いますね。俺の場合、若いころ成功してたら馬鹿になっていたんじゃないかな(笑)。
今、充実していますよ。
――今後はどういった作品をつくりたいですか?
“自分らしくないもの”を撮りたいです。
常に挑戦はしていきたいですね。

1986年、俳優として「そろばんずく」でスクリーンデビュー。 1996年、「弾丸ランナー」で監督・脚本デビューを果たす。第18回ヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞。2001年には「MONFAY」は第50回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞した。同年「弾丸ランナー」が全米で公開。シカゴ映画祭では“SABU監督特集”が開催される。2002年、「DRIVE」がカナダ・ファンタジア映画祭にて審査員部門・最優秀アジア映画作品賞を受賞。2003年に「幸福の鐘」を発表し、同作品は第53回ベルリン国際映画祭NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞。2006年には初の原作に挑戦した話題作、重松清著の「疾走」を手掛け、国内外各地で高い評価を受ける。

船上で蟹の缶詰を加工する蟹工船。そこでは出稼ぎ労働者たちが劣悪な環境におかれ、安い賃金で酷使されていた。鬼監督・浅川は労働者を人間扱いせず、非道 のかぎりを尽くしたが、労働者たちは過酷な労働に疲弊し、絶望の中、ただ言われるがままに働いた。しかし、労働者の一人・新庄がそんな環境に慣れてしまっ た労働者たちに「自分たちが変わらなければ何も変わらない!」と提起をし、労働者をまとめ支配者・浅川監督に立ち向かった。
映画『蟹工船』
監督・脚本:SABU/原作:小林多喜二「蟹工船」
キャスト:松田龍平、高良健吾、新井浩文、柄本時生 他
2009年/日本 *2009年7月4日公開*
